美しき人生のために―リルケの言葉 (1964年) (現代教養文庫)

中学時代、駅伝選手だった私は、毎日ゴールを目指して走り続けた。弱い自分と戦いながら、ライバルと戦いながら、そしてストップウオッチの秒針と戦いながら、死に物狂いで走り続けていた。中学を卒業し、高校に入学する前の春休み、奈良の若草山に登り、頂上から奈良の街並みを眺めながら、半日過ごした。生まれ育った加茂の町を通り、これから行こうとしている木津高校のある木津の町を通り、そのあとは宇治、京都方面に流れ、最後は淀川となり、大阪湾に注いでいる木津川の流れを眺めていた。なんとその流れは、これから歩もうとする私の人生を示唆しているではないかと気が付いた。夕暮れ時、山を下り、三条通りを歩いていた時、小さな本屋の店頭で、この本が偶然目に留まった。山の上で人生について、思いを馳せていたいたので、何が書いてあるのだろうと手に取り、冒頭の、『これが僕の戦いだ。あこがれに身を清めて日々をつらぬきすすむことが。それから、強くどっしり幾千の根を張って人生に深く食いいることがーーそして苦しみを通して成熟しはるかに「人生」から立ち出ること、はるかに「時間」から立ち出ることが！』の詩を見た途端、これだ！！。なんと素晴らしい言葉なんだろうと心を打ち貫かれた。この詩は私が人生を生きていく上での基本姿勢となり、座標軸、となった。160円で買った一冊の本、僕の人生で最高の買い物をしました。今では1億円以上の価値がありました。